関則雄 と Judith Rubin教授の対談 (3)

 

 関 則雄 / 当法人代表理事

  Judith Rubin / 元アメリカ・アートセラピー学会会長、同終身名誉会員         

 

 

日本のアートセラピストの連携

 

 

 

 

 

日本にいる他のアートセラピストとは会ったりする機会はありますか。2006年に東京で開催されたクリエティブ・アーツセラピー国際会議の後に集まっていたのを覚えていますけど。

 

 

 

 

 

そのうちの何人かとは今でも連絡を取っています。私のセンターにも講師としてきてもらっている人もいます。でもそのほとんどの人がアートセラピストとしては働いていません。アートセラピストではなく別の役職でもって仕事を見つけなければなりません。

 

 

 

  


 

そうですか。でも難しいですね。 

 

 

 

 

 

ええ、大変です。アメリカから帰国した後、私自身、日本で基盤を作っていく時に一番難しいと感じたのが社会の構造でした。日本の社会は支配的で階層的だと思いましたよ。国外から新しいものが入ってくるのをなかなか受け入れてくれません。しかし、実際にはアートセラピーを学んでみたいと思っている人が非常にたくさんいます。それにもかかわらず大学はアートセラピーを教えることに興味をなかなか抱いてくれません。

 

 

 

 

 

 

う〜ん。そういえば、美術学校で教えているというお話が先ほどありましたが。

 

 

 

 

 

ええ、でも私のクラスはあくまでもヒーリング・アート領域のプログラムの一環としてのもので、その領域の目的は病院や施設に癒しの絵を描いて飾ろうというものです。私のベースとは少し違っています。

 

 

 

 



まぁでも、学生はあなたのことを聞く機会があるわけですから、「アートセラピーを学べるようにしてください」と言い出す学生が出てくるかもしれませんよ(笑)。

 

 

 

 

 

 


 

ええ、そうなったら良いですね(笑)。それで、私の養成コースでは、学生は自分たちの作品からたくさんのことを学びます。すばらしいですよ!

 

 

 

 

 

 

 

それは非常にやりがいがありますね。

 

 

 

 

 

  


 

そうなんです、たった開講して数日後で、たくさんの自己表現や自己洞察が見られ、本当に驚いています。どんなことがあったかお見せしたいくらいなんですが...。

 

 

 

 

 



いいことですね。やっていることが何であれ、うまくいっている証拠です。

 

 

10年後のアートセラピー

 

 

 


 

ありがとうございます。生徒が養成プログラムを終えて将来どんな活躍をしてくれるか、今から楽しみです。さて、最後にもうひとつだけ質問があります。10年後のアートセラピーには、アメリカだけでなく世界的に見て、どんな未来が待っているでしょうか。

 

 

 


 

そうきますか!(笑) 

 

 

 

 

 



そうです(笑)。ですから、あと10年は元気でいてもらわないと困ります!

 

 

 

 

 



 

アートセラピーはきっと成長し続けるでしょう。他分野からのプレッシャーは無くならないでしょう。なぜなら、アートセラピーはアートと心理学のブレンドだからです。過去にそうであったように、アートの側の人々も、心理の側の人々も、それぞれアートセラピーの半分を自分たちのものにしたいと望み続けることでしょう。またブレンドであるが故に、アートセラピストは自分たちがなにものかということを明確に定義する必要があります。病院で働くアーティストや描画を利用する心理士とどう似ていて、どう違うのかということですね。このことは、続いていくと思います。



それにもかかわらず、アートセラピーは成長していくことでしょう。なぜならそれだけの効果があり、それだけ強力なものだからです。人々は、アートセラピーにはどんなことができるのかということを認識していくと思います。私たちにはアートセラピーがもたらす効果が分かります。雇用者もそれに気づくことでしょう。世界中の苦しんでいる人たちをすべて助けるために、充分なアートセラピストがいるという状況にはなることはきっとないでしょう。ですから、私たちアートセラピストはアーティストや他のメンタルヘルスの専門家と力を合わせていく方法を見つけていくことを望んでいます。



そのことは今、アメリカのカウンセリング業界で大きな問題となっています。カウンセラーはアートを使いたがっています。心理士やソーシャルワーカーもアートを使いたがっています。児童を相手にするプレイセラピストはアートを使わざるを得ません。ですから、関連分野の専門家がより良い仕事をするよう手助けする必要があるわけです。同じことがヒーリングアーティストたちについても言えますね。

 

 


 

 

そうですね。 

 

 

 

 

 

それはチャレンジです。私はアートセラピーは成長すると思います。効果的ですからね。そして、効果的だということをもっともっと証明していけば、もっともっと早く成長していくことでしょう。しかし、それには他分野の専門職を仲間にしていかなければなりません。仲間になれると思います。もちろん他のクリエティブ・アーツセラピーストともですね。あなたが同じお考えか分かりませんが。 

 

 

 


 

ええ、同感です。私の養成プログラムでも取り組み方はほぼ同様です。なぜなら、私のセンターでは、臨床家をトレーニングしているからです。現在、臨床心理士、作業療法士、デイケアスタッフ、大学の心理学の先生など、さまざまな生徒がいます。 

 

 

 



あぁ、それでは(すでに現場で働いている人たちなら)彼らはアートセラピーに加えて病理学や心理学についてすでに何かしら知識があるということですね。 

 

 

 



そうなんですよ!ですから、彼らは彼らのアイデンティティーがあるわけですが、そのうえでアートセラピーを学びたいという人たちなんです。

 

 

 

 

 

 

いいことですね。 

 

 

 



 

ええ。ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

いいことを思いつきましたよ。もし彼らの一人が雇用者になったら、アートセラピストを雇うかもしれませんよね(笑)。ミュージックセラピストかダンスセラピストかもしれませんが...。そういうふうにしてひとつの専門分野というのは成長していくものなんですよね。人びとがもっと自分自身や誰か大切な人にとって効果があると知ったり、見たりしていく。そこではじめて、アートセラピストを雇用したくなるんです。

 

 

 

 



まぁ、こうせざるを得ないという部分もあるんです。

日本ではまだまだアートセラピストという独自のアイデンティティーを

確立することができないからです。

 

 

 

 

 

養成プログラムができるといいですね。

 

 

 

 

 


ええ、その方向に向かって、私たちはようやくスタートをしたばかりです。でも、修士課程レベルでの大学での養成コースは絶対に必要です。2年前の3.11東日本大地震、それに続いた大災害と原発の爆発事故以降、訓練されたアートセラピストが必要になっています。PTSDに苦しむ人びとは、アートを通して気持ちを表現することを促すだけでなく、同様に病理学、精神メカニズム、そしてすべきではないことについて知識を持った専門家のケアを必要としています。 

 

 

 

 


アートセラピストをやっていて一番の喜びは苦しんでいる人を助けることです。しかし、そのような役割をするのに適した人を見つけるのは難しいですよね、アートセラピーの分野に限って言っても...。アーサー・ロビンズとこの間話した時も、彼は「退職してホントに幸せだよ」と言っていました。だから私は、「退職なんてしてないじゃないですか。だっていまだに患者も見ているしスーパービジョンもしてるでしょ」と言いました。彼の答えは、「俺が言ったのは、Pratt (Institute)の仕事を定年退職したことだよ。それが幸せなんだよ」でした。

 

 

 

 

 

(笑)。

 

 

  



彼はすばらしい養成プログラムを立ち上げました。彼が言うには「立ち上げたよ。立ち上げたのは楽しかったよ。で、プログラムは俺の手から離れて今でもしっかりと続いて行っている。でも経営する側になるのはイヤだったんだ」ですって(笑)。

 

 

 

 

 

 

(笑)いや〜、長い時間インタビューをさせていただいて、今日はどうもありがとうございました。10年後にまたアートセラピーがどのように前進したかお話を聴かせてもらうために、インタビューをしましょう。よろしいですね。

 

 

 

 

 

 

 

どういたしまして!10年後ですね、約束です。

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは、またその時お話ししましょう(笑)。さようなら!

 

 

 

 

 

 

(笑)さようなら!

 

 


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ジュディス・A・ルービンは、アメリカにおけるアートセラピーのパイオニアの1人である。ピッツバーグ医学部精神科およびピッツバーグ精神分析センターの教授。元アメリカ・アートセラピー学会(AATA)会長、同終身名誉会員。

 

著書は以下の通り多数:

Child Art Therapy(1978, 3 2005)

The Art of Art Therapy (1984, 22011)

Introduction to Art Therapy: Sources & Resources (1998,22009)
My Mom & Dad Don't Live Together Anymore (2002) 

Artful Therapy (2005)
Approaches to Art Therapy ()(1987, 22001) /()「芸術療法の理論と技法」誠信書房(2001)