海外からのレポート

このページでは海外でアートセラピーを学んだり実践している人たちの生の声を紹介していきます

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アートセラピー in ロンドン(London Art therapy Center)

 

 

 櫻井 美江 Harue Sakurai 

 

2014.年 夏

 

 初めまして。櫻井美江と申します。まずは私自身のことを少しお話しします。私は1998年から10年ほどロンドンに住んでいました。ロンドンではUAL(ロンドン芸術大学)大学院でMAファインアートを修了後、デザインの仕事をしながらアート作品を制作、発表していました。2007年イギリス人の主人との間に長男が生まれてましたが、超未熟児だったため、脳性麻痺となり日本に帰国。現在はアートとは関係のない仕事をしています。


今年に入って休止状態だったアート活動を何かのカタチでまた始めたいと強く思い模索していた所、アートセラピーと出会いこの6月から臨床アートセラピスト養成コースを受講しています。


今回、昨年から主人がロンドンに単身赴任となったため、長めの夏休みをとって、7歳と3歳の息子を連れてロンドンに来ることになり、本場イギリスでアートセラピーのワークショップを受講することにしました。

 


 ロンドンアートセラピーセンターで参加したワークショップは「Arts Approaches to Conflict」、「The Image, Symbolic Expression & Interpretation in Art Therapy」の2回。それぞれ10:00~16:00までで参加者は各10+講師でした。2回とも参加者の半数近くが経験豊富なアートセラピスト。その他サイコセラピストやカウンセラーがほとんどで私を含めて数人がアートがバックグランドという構成でした。出身もイギリス、イスラエル、インド、イラン、スイス、フランス、ポーランド、スペイン、中国等みごとにバラバラで本当に興味深いワークショップとなりました。


 国籍、人種、宗教も文化もまったく違う人達が集るイギリスで、アートセラピストとしてクライアントに接するのは想像以上に大変です。自分の「○○人」としての常識などまったく通じません。クライアントとの描くシンボル表現や色彩の持つ意味は国や宗教でまったく異なります。例えば、アルコール依存症のクライアントを持つイスラム教のセラピストが、イスラム教徒は原則飲酒をしないので、酔っぱらうということが解らなかったと言っていました。そういう状況でセラピストとして何を自分の軸にクライアントに接しているのか、多数のセラピストに会って話を聴きたいと思いました。            

 

 最初のワークショップでは「Art Approaches to Conflict」(葛藤を持つクライアントへのアートアプローチ)このワークショップはエクササイズが中心で、講師はマリアン・リエマアン。犯罪被害者のサポートを長年行い、沢山のセオリー本を執筆しています。エクササイズの内容は以下の5つ。


1.conflict
と聞いて思いつく事を自由に表現する。

2.ペアを組んでスクイグル法。

3.ペアを組み二人で一つの描具を持ち、お互い心に決めたイメージを描く。(描こうとする)

4.ペアを組み、一枚の紙に自分のイメージを描く。

5.自分の中にあるconflictを表現。ペアを組み話し合った後、相手の描いた作品にイメージを描いて応える。

どれもイメージを表現した後ペアでそれぞれの作品について話し合い、その後皆で話し合いました。ワークショップが行われてたのは普段セラピーで使っている部屋で、作品を造る時は部屋にある様々なマテリアルを自由に使うことが出来、とてもいいなと思いました。

もう一つは「The Image, Symbolic Expression and Interpretation in Art Therapy 」(アートセラピーにおけるイメージ、象徴的表現と解釈)ここではレクチャーが中心で正直ついていくのがとても大変でした。レクチャー内容はまず、「クライアントの作品を解釈するとはどういうことか?」「自分の解釈をどのタイミングでどれだけクライアントに話すのか?話すべきなのか?ということをディスカッションし、その後美術史家のエルバン・パノフスキー、エルンスト・ゴンブリッチ芸術作品に対する解釈についての内容でした。


かなりの専門知識必要とする内容で、私の脳の許容範囲が一杯一杯になって来たところで、エクササイズとなりました。エクササイズはペアになり、タイトルを決めずに15分づつ交互に作品を造り、相手が造っている時は自分が、アートセラピストとして相手を観察し、その後そのペアで話し合うという内容です。その後皆でディスカッション。ランチを挟んで、クライン、ウィニコットからユングのクライアントへの作品解釈のアプローチ法のレクチャーがありました。その際、NYから来たシニアのサイコセラピストが、自分と意見が合わないと講師が折れるまで討論をするという事態になり、楽しみにしていたもう一つのエクササイズが時間切れで出来ずにワークショップが終了しました。


久々にイギリスでレクチャーを受けて改めて思い出しましたが、イギリス人だけでなく皆とにかく喋る喋る。思ったことは口にする。黙っていると相手の良いように理解され事が進んでいく。。。まだイギリスに来て間もない頃、英語についていけず、辛い思いをしたことが何度もありました。

 

アートセラピーの中では口を開かないクライアントも多数いるので、何も話してくれないクライアントが一番大変だと皆口を揃えて言っていました。沈黙に耐えられないのです。それを考えると日本人の黙っていても相手の気持ちを察する。察しようとする。相手の身になって考える。考え様とする姿勢は、傾聴するという行為に向いているかもしれないと思いました。

 

 日本ではまだ認知度もセラピスト自体も少ない現状の中、イギリスで沢山の現役セラピストと接したワークショップはとても勉強になりました。このワークショップの後、BAATで行われた、アートセラピーファンデーションコースにも一週間みっちり参加する事が出来、ここでも本当に貴重な体験をしました。今後、日本に帰って私に何ができるのか、何をすべきなのか見極めながらアートセラピーの勉強を進めていきたいと思います。


イギリスでのアートセラピーの現状

普及度は広く、病院での治療は国の医療保険でカバーされ、(イギリスは基本的に全ての医療費が無料です。)その他学校、刑務所、ケアハウス等でアートセラピストが勤務している所が多くあり、必要に応じてセラピーが行われます。

またアートセラピストとして働くには、2~3年かけて大学院の修士課程を修了後、1年以上の研修を経てBAAT(英国アートセラピー協会)への登録し、初めてアートセラピストになります。