スピリット・オブ・アートセラピー5

 

最初の授業

 

プラットにおける最初の授業は、このコースの中心となる授業となるロビンズ教授によるものであった。

 

教授は窓に面した壁側の中央に置かれた椅子に座り、学生たちは、教授をぐるりと半円形に取り囲んで授業を受けた。

 

(ちなみに、学生の座る椅子は飛行機の機内食の時に使われるテーブルのように、折り畳み式のテーブルがそれぞれにセットされていた。

日本ではこのようなテーブルは、日本ではあまり見たことが無く、長テーブルに2人か3人がけという風景に見慣れていた私にとっては当初は戸惑いがあったが、今にして思えば、あのテーブル付きの椅子は、座る人の個別性と自立を重んじた優れものだったのではないかという気もする。)

 

そのそもそもの最初の授業は、スタートから私にとって驚きから始まった。

 

短い講義の後、教授は学生に画用紙を3枚ずつ取るように言う。

そして教授が最初に出したディレクションは、以下のようなものであった。

 

 

「まず最初に、あなたの中のスキゾイド(分裂質)を描きなさい。」(1枚目)

 

「次に、あなたの中のうつを描きなさい。」(2枚目)

 

「最後に、あなたの中にあるパラノイド(妄想)を描きなさい。」(3枚目)

 

 

これが私がアートセラピーで体験した初めての絵であった。

 

当時の絵は残ってないが、渦巻き模様やしたたるように重なる波模様など、抽象的なパターンで表現したのを覚えている。

 

ロビンズ教授は学生たちに、自分が描いた絵を教室の壁の好きなところに貼っていくようにと教示。

 

全員貼り終えると、ロビンズ教授は教室をぐるりと見まわしてから、なんとまっすぐ私の絵に近づいていき、「この絵から始めよう」と述べる。

そして、その絵の中に見られる描かれた内容の構図やタッチが、出されたテーマとどのように関連しているかについてコメントをしていく。

 

この最初の授業で、さまざまな心の病理が絵という目に見える形で表現されていったこと、そして、それらの病理の違いが描かれた絵のタッチや形態にきれいに反映されていることを

 見せつけられた。

 

そしてこの時のワークで、何よりも大きな学びになったものは、普段我われが心の病を持っている人の中に見ている病理といったものが、実は誰の中にも存在しているということ、そして健常者と心の病を持っている人との違いは、その相対的な比率の違いでしかないということであった。

 

この考えは、私にとってアートセラピストとしてのアイデンティティーを持つ上での基本的な姿勢となっている。